誰もが寝静まった深夜零時、介護職員Fは入居者の排泄介助の為、Rユニットのリビングへ足を向かわせた。

誰もいない暗闇のリビングで、ほのかな甘い香りが介護職員Fの鼻孔をくすぐった。

Fはリビングを見まわし、その香りの発生場所に目をやる。テーブルの上、そこにはいつも見慣れたあずきバーを包装したビニール袋と、今ではアイスをまとっていない丸裸のバー(棒)と、キッチンの引出に仕舞われていたはずのココアの袋がだらしなく口を開けたままでそこに置かれていた。

そして、テーブルと床にはまるで黄砂のように散乱したココアパウダーと、そしてもう同じ袋には戻りはしない粉末達を必死に拭い隠してしまおうとする無数のティッシュが無造作に丸められ置かれていた。

誰の仕業か…

寝静まるリビング、その中でもFは暗闇に潜む犯人の寝息を嗅ぎ取る…
熟練の仕事、彼女は介護職員として生まれ、これまで数多の困難な介護、タフな職場をくぐり抜けてきたプロフェッショナル…。

そして、彼女の足はある入居者の部屋に迫る…

彼は静かにその身をベッドに横たえていた。Fは気付かれぬようにその枕元に近づき、静かにそっとその包布をめくる…

足元の冷やかさに彼がふと目を覚ます。

その彼にFは優しく「ズボンを脱いでください。私が洗濯しておきますから。朝までにはなんと乾くはず。

まだ間に合います。朝になったらいつものような笑顔と元気な歌声で起きてきてください。そうすれば、みんなきっと気付かずにまたいつもの一日が始まりますから」と。

彼は安堵したように笑みを浮かべ、再び黄金の微睡の中に戻っていた…

きっとまた大好きなあずきバーを歯がかけてしまう程たくさん食べる夢を見るのだろう。

   (この物語は一部を除きノンフィクションです。関係者の方々のご理解ご協力のもと掲載しております)。